認定NPO法人国際子ども権利センター代表理事、国際協力NGOセンター理事、シャプラニール評議員など。日本ユニセフ協会勤務後、ブータン、インドに滞在したあとシーライツの大阪事務所職員を経て、駐在員としてカンボジアで児童労働・人身売買防止事業に従事。2012年から文京学院大学教員(NPO論など)。著書に『小さな民のグローバル学 共生の思想と実践を求めて』(2016年ぎょうせい、共編著)、『SDGsと開発教育:持続可能な開発目標のための学び』(2016年 学文社、共著)、『児童労働撤廃に向けて—今、私たちにできること』(2013年 アジア経済研究所、共著)などがある。
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増え続ける日本の児童虐待
日本は、特に子どもに対する暴力に関する取り組みがとても遅れています。2018年2月に「子どものための2030アジェンダ:ソリューションズ・サミット(注)」という国際会議がストックホルムで開かれたのですが、その際、日本政府がパスファインディング国(内外の子どもに対する暴力撲滅に向けた取り組みにコミットする国)になることを表明し、子どもに対する暴力をなくすための行動計画を作ることになりました。主に、児童虐待、いじめ、性的搾取に焦点が当てられています。
また、日本ではジェンダーと子どもの貧困などの問題が密接に関係しています。子育ては女性の仕事と考えるジェンダーバイアスがワンオペ育児につながり、児童虐待のリスクを高めています。そうならないためには夫や会社、社会全体が変わらなきゃならない。日本はジェンダーギャップ指数が世界で110番目という低さである現実をきちんと認識しなければならないと思います。
子育ての力を磨く「ペアレンティング」
児童虐待を防ぐには、親に子どもの脳を傷つけないペアレンティング(親のかかわり方)を普及することが大事です。最近、アメリカの疾病予防管理センターとカイザーという製薬会社が共同で行った脳科学の調査研究の結果が出たのですが、子どもの時期に虐待や親の精神疾患など逆境的体験を持つと、子どもは脳に長期的な影響を受け、将来がんなどの病気や依存症になりやすく、キレやすい大人になるということがわかりました。この研究結果を基にし、私の団体でも子どもの脳にそうした影響を与えないためにどう子どもに接したらよいのか、というペアレンティングの子育て講座を始めました。
教育現場も変わらなければならない
学校の先生が変わることが非常に大事だと思います。実は、子どもの権利条約の批准に反対したのは学校の先生だったという話があります。つまり、子どもが権利について知ってしまうとわがままになって手に負えなくなる、という考え方があったのです。しかしそれは逆で、カンボジアの事例ですが、以前は体罰を行っていた先生が子どもの権利について学び、子どもの意見や質問をきくようになり、双方向の関係性ができると、子どもがなついて先生が楽しく教えられるようになっています。生徒との関係が良くなるだけでなく、家族との関係性も変化したという経験が出て来ていて、カンボジアやネパールでは学校の体罰をなくすための研修が盛んになっています。
日本は逆にそうした途上国での経験から学ぶことができるのではないかと考えています。日本の多くの学校には子どもの権利に反した校則がありますが、子どもたち自身が考えて自分たちにとって最低限どのようなルールが必要なのかを決めていくことができるはずだと思います。しかし、それを子どもたちにさせられる先生が少ない。教育学部でも子どもたちの権利をどう実現していくかを学ぶ授業が増えていけばよいと思います。
子どもの問題に関する海外と日本の共通点・異なる点
共通点としては、親としてよい子に育てようとして体罰をふるってしまうということがあると思います。それ以外のやり方もあるはずで、どんな人間になりたいかと子どもと話し合う対話から入っていけば子どもは変わっていくのに、やったことがないのでなかなか出来ない。「こういう方法もある」ということを知り、実践してみることが大切です。そういうファシリテーターが増え、学ぶ機会が増えなければなりません。
海外と日本が異なる点としては、日本の場合、貧困が見えにくい現状があると思います。貧困家庭の子どもも着ている服装など外見からは判断できないため、子ども食堂を全ての子どもに開かれたものにすることで、貧困家庭の子どもも来られるという状況があります。一方、途上国では、貧しい家庭の子どもは働かなければならないという固定観念があります。それは長く見慣れてきたことなのでなかなか変わらないのですが、それは権利が侵害されているんだ、と言い続けることがとても重要だと思います。
子どもの権利の分野で後れを取る日本
日本では貧しい子どもが見えづらい上に、子どもには投票権もなく、政府は子どもの意見を聴こうとしていないため、子どもに対する施策の優先度は低くなっています。先ほど述べたように、子どもに投資することがいかに社会のためになるかという認識がまだまだ不足していると思います。また、日本では圧倒的に人権教育が不足しているので、社会の権利に関する認識が低いのに対し、途上国の方が国際NGOの影響もあり、子どもの権利に関する認識や実践は随分進んでいると思います。そうやって子どものころから権利について学んだ若者が育っていて、日本人などかなわないような活動家が育っています。
ネパールでは子どもの権利条約に基づいて子どもクラブが各地で作られ、子どもが意見を表明してきた歴史があります。そこで育った、いわば子どもクラブの卒業生たちがその後も頑張っていて、子どもにやさしい地方行政への取り組みを進めています。その全国会議で大人に交じって子ども・若者たちがどんどん発言している様子を見たら、日本の皆さんはきっと驚くだろうと思います。
子どもの権利条約に書かれたことを国が実行しているか、「国連・子どもの権利委員会」が審査をしています。日本は批准した1994年以降、4度の審査を受けています。これらの審査では、さまざまな差別、子どもの意見表明・参加、子どもに対する暴力、競争が激しい教育などの問題が指摘されています。同じような指摘をくり返し受けているにも関わらず、なかなか改善されていません。この勧告を広く市民が知り、きちんと実行に移すように政府や国会に求めていくことが必要です。
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